3.「Society 5.0時代・ポストコロナ時代の健康いきいき職場づくり」に向けて ~従業員の健康づくりの経営への新しい形の統合に向けて~

では、“これから”の「健康いきいき職場づくり」はどのような形で展開されるのでしょうか。それについて触れるにあたり、近年の社会における健康や働き方、職場のあり方等の変遷について、改めて振り返ります。

1章で見たように、職場のメンタルヘルス対策への関心の高まりは、リスク対応としての側面から、次第にマネジメントや働き方といった経営に近い要素をも取り込み、しかもワーク・エンゲイジメントに代表されるポジティブな側面も重視されるに至りました。それとともに、折からのDXSociety 5.0といった社会的変化は、より自律的な働き方への志向を強めるとともに、健康経営をはじめとする職場や働き方に関しての企業・従業員双方の関心の高まりにつながりました。また、ESG投資等の潮流は、ステークホルダーとしての従業員の能力向上や成長を尊重する動きを加速させました。さらに、コロナ禍により、テレワークをはじめ、自律、分散して働くことへの流れがさらに速まりました。

こうした変化に対応するために、企業は従業員にとってより魅力あるアウトカムを提供する必要性が高まりました。先述したように、従業員自身も、自身の健康増進はもとより、ワーク・エンゲイジメントに代表されるポジティブなメンタルヘルス、そしてそれに関連する働き方や職場環境、また働くことを通じた成長への関心を高めつつある現在、アウトカムはそれらを包含したより広範なものであることが、魅力の向上につながります。そのため、取り組みのアウトカムの拡大が要請されることになります。

また、取り組みの場についても、現時点ではまだ大企業中心の側面が強いため、企業内の取り組みに限らず、人権デューデリジェンスのような社会的要請に対応するためにも、サプライチェーンや地域社会、従業員の家族をも含めた、企業や組織を超えた形で活動を進める必要性も出てきました。これは企業活動の目標に社会貢献が重視されるようになってきたことにも関係します。

こうした取り組みは先進的な企業で始まっているものの、その内容が従来型の健康管理の範疇を出ない限定的なものにとどまるケースや、健康管理部門と人事や経営、あるいはこれ以外の関係部門の間での連携が不十分なケース、さらに最終目的や成果基準が不明確なまま健康経営を推進するメリットを社内で十分に示せないケースも見られます。また従業員との関係では、取り組みが現場に負担感をもたらす一方で、多くの従業員にとっては当事者としてのメリットや参加意識を持ちづらい場合もあることが懸念されます。

さらに、上記したような当事者としての参画意識を高める上でも、またコロナ禍に伴い、自律・分散して働く従業員をつなぎとめ、かつ心身の健康を増進させるとともに高いパフォーマンスを発揮してもらうために、適宜協働を促すことで職場に求心力が働くようにすることの重要性が高まったこともあり、広範な関係者を巻き込み、主体的な取り組みを喚起するような方法論がこれまで以上に求められるようになりました。

併せて、これまであったさまざまな境界(バウンダリー)が第
2章で見たような内外の環境変動によって揺らいでいるということも勘案する必要があります。例えば、少子高齢化時代を迎え、生涯現役が叫ばれるようになったことによる「現役時代と現役後・老後」との境界の揺らぎや、テレワーク導入によって緩む「仕事と私生活」との境界や「労働と休暇」との境界、DXの進展やコロナ禍による地方移住志向に伴う「大都市と大都市以外」との境界、「本業と副業」の境界等、さまざまな境界が緩くなり、多様化、複雑化が進んだという状況があります。




図表10:考えられる主な「境界」の揺らぎ



これらの状況に対応するにあたっては、「健康いきいき職場づくり」も新たな考え方に立脚する必要が出てきました。では、Society 5.0時代・ポストコロナ時代という、これまでとは異なり、より複雑さを増していった社会環境下において「企業・組織と従業員がともに健康で、いきいきと活動し、お互いに成長する」状態を実現するには、何が求められるのでしょうか。この“これから”の「健康いきいき職場づくり」には、取り組みのあり方の転換~これまでの取り組みを基盤にしつつ、質的にはさらに高次のものを目指すこと~が要請されます。具体的には、以下の3点の
「取り組みの視点の拡大」がポイントになると考えます。


・ウェルビーイングの実現を目標とした、個人・職場・企業・社会それぞれのレベルでの働きかけ(取り組みの「アウトカム」の拡大)

・企業・組織を超えた活動(取り組みの「場」の拡大)

・関係者全てが主体的に参画できる活動(取り組みの「主体」の拡大)





図表11:「健康いきいき職場づくり」の取り組みの視点の拡大



ここからは、それぞれの項目に関して概観し、最後にこれを実現するために各企業内のアクターがどのように活動することが必要となるのかにも触れていきます。

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