2020年5月20日(水)、「新型コロナウイルス緊急対応セミナー」(全5回開催予定)を開催いたしました。同セミナーは、当フォーラムとしては初となるオンラインセミナーとして実施され、約260名もの方々にご参加いただきました。初回となる今回は、「『健康』と『いきいき』のために、今我々がすべきこと」をテーマに据えて行われました。学識者および企業担当者による講演や質疑応答では、多様な観点から新型コロナウイルスへの対応方法と今後の新しい働き方に関する問題提起がなされました。
本ページ下部より、川上教授・島津教授のセミナー資料をダウンロードできます。なお、セミナー資料は通常会合ですとフォーラム会員のみの閲覧ですが、今回は新型コロナウイルス対応という特殊性を加味し、全員への公開としています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、多くの企業においてテレワークなどの新しい働き方への移行が進んでいます。ここ数か月間の急激な働き方の変化が、従業員や組織に大きな影響を与えていることは言うまでもありません。そこで、それらの変化への対応策や“健康いきいき”につながる今後の新しい働き方について模索する場として、当フォーラムでは、新型コロナウイルス緊急対応セミナーを全5回(予定)のシリーズとして開催することといたしました。
初回となる今回は、新型コロナウイルスの影響下における、組織および従業員の心身の健康やマネジメントのあり方について、総論編として「いま何が問題なのか」という論点整理を中心に進めました。
冒頭、東京大学大学院医学系研究科 川上憲人教授より、『新型コロナウイルス対応のために、今考えるべきこと』と題してご講演いただきました。
新型コロナウイルスがもたらす社会や経済、働き方に対する影響に触れながら、現時点では企業における対策の実施状況にも大きな開きがあるという現状をご紹介いただいた上で、今後の新しい働き方について問題提起していただきました。なかでも新型コロナウイルス流行による長期的な影響として、経済不況や財政赤字に伴い自殺者数が増加する可能性や、人と人との関わりが困難となる時代へ突入するであろう点をご指摘いただきました。
今後は、今回生じた新型コロナウイルス流行による物理的距離の拡大だけでなく、日本の雇用システムが従来の日本型雇用からジョブ型雇用への転換期にあるのだということも踏まえて、従業員の多様化・個人主義に対応した新しい働き方について検討を重ねる必要があるとご提言いただきました。さらにテレワークは、今後はより積極的に検討すべき働き方のオプションとなる点、一方で導入にあたっては「コミュニケーションと信頼」が問題となる点についてご指摘いただきました。
続いて、慶應義塾大学総合政策学部 島津明人教授より、『「健康」からの論考~コロナに負けない「健康いきいき」を考える』と題してご講演いただきました。
新型コロナウイルス流行による「健康いきいき」への影響は、単なる直接的な影響に限らず、新型コロナウイルス流行に対応した職場や働き方の変化を通した影響も考えられるとご説明いただきました。さらに、どの程度「健康いきいき」に影響が及ぶかについては、職種の差異(例:感染リスクの差異)などの個人差要因があるとのことです。
現在はさまざまな場においてコントロール不可能な事柄が発生しているとし、だからこそ「できることに注力する」姿勢によってコントロール感を保つことが重要であるとご指摘いただきました。さらに、“自粛”はいわば慢性的なストレス状況であることから日常生活でのリフレッシュの機会を持つこと、ならびに向社会的な活動によって人とのつながりを維持していくことが重要であるとご指摘いただきました。
これからの時代は第4次産業革命×新型コロナウイルスの時代であるともいえ、我々の働き方についていま一度問い直す必要があること、その際には“主体的朗働”がキーワードとなることをご提言いただきました。
続いて、学習院大学経済学部 守島基博教授より、『ポスト・コロナの働き方~ワークスタイルとマネジメントからの考察~』と題してご講演いただきました。
新型コロナウイルス流行により、多くの企業においてテレワークといった新しい働き方への移行が非常に急速に進み、「混乱」が生じている現状についてご指摘いただきました。
新型コロナウイルス収束後も、ある程度は現在の新しい働き方が継続する可能性があるとし、物理的な場を共有しないバーチャルな働き方、いわば「自律・分散・協働型」の働き方が増えていくのではないかとご提言いただきました。その流れのなかでは、従業員個人が自律的に働くことも重要である一方で、組織のマネジメントの変革が何よりも求められているとご指摘いただきました。「自律・分散・協働型」の働き方を進めていくためには、上司・部下間の信頼感や、リモートマネジメント、非接触型に対応したコミュニケーションなどが重要であることをご説明いただきました。
最後に、東芝ライラック株式会社 大草祥一様より、企業での取り組み事例についてご講演いただきました。同社は健康経営優良法人2020(ホワイト500)の認定を受け、健康経営のための取り組みを積極的に進めています。今回は、新型コロナウイルス流行による従業員への影響や、課題に対して講じている対応策を中心にご紹介いただきました。
まず、新型コロナウイルス流行が従業員に及ぼす影響として、原則テレワーク化により、運動不足や腰痛・肩こりといった身体面への影響や、同居する家族との適度な距離感を保ちにくいこと、システム上業務が通常通りに進みづらいことによるストレスが生じている点を挙げていただきました。
それらの課題に対して、同社では、FUN+WALKと題したウォーキング推奨の取り組みや、腰痛予防のための体操に関する情報共有、インフラ整備により業務に注力できる環境づくりを迅速に行ったとのことです。さらに、社内においてはテレワーク化に伴う良い影響も認められたとし、慣例化していた会議の必要性の再認識や、従来の発想にとらわれずに工夫をする従業員の増加、通勤時間の削減(個人としての時間の増加)につながったことをご報告いただきました。
その後、チャット機能を用いた質疑応答の時間では、活発な意見交換がなされました。
「新型コロナウイルスによる影響下でのストレスチェックや産業保健のあり方」に関する質問に対しては、川上教授より「ストレスチェックが在宅にて受けられる仕組みづくりが必要であり、プライバシーに配慮することも重要である。また、テレワークならではの孤立感や上司・部下間の連絡頻度などについても面談内容に含めることを検討すべきである。在宅勤務者の一体感を醸成することが鍵となる」とご回答いただきました。
続いて、「テレワーク下において上司・部下の良好な関係性や信頼感を築きあげるためのポイント」に関する質問に対しては、守島教授より「上司から部下に対しては、まずは仕事を“任せる”こと、その上で“ケア”をすることが重要。それらをコンスタントに続けるというプロセスが信頼感につながっていく」とご回答いただきました。
さらに、「テレワーク対応ができない職場において“健康”という観点から留意すべきポイント」に関する質問に対しては、島津教授より「同じ企業に属していても、職種や雇用形態の違いによりテレワーク対応などの状況が異なる。まずは会社として“テレワークをしたくでもできない状況にある従業員の存在を把握している”という問題意識を伝えることが重要である。加えて、現在テレワーク対応をしている企業にて今後出社可能と判断がなされた場合においても、その対応については慎重に検討すべきである。感染への不安の程度には個人差があることから、リモートで働くという選択肢を従業員に残すことも重要ではないか」とご回答いただきました。
最後に、健康いきいき職場づくりフォーラム事務局より、開催を予定している第2回および第3回のセミナーについてご案内し、盛況のうちにセミナーは閉会いたしました。
以下に、当日の資料(川上教授・島津教授)を掲載いたします。
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