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7月21日(金)、健康いきいき職場づくりフォーラム定例セミナーが開催されました。今回のテーマは、「2年目のストレスチェック制度」です。
セミナーでは前半に東京大学大学院の川上教授より2年目のストレスチェック実施における必要な工夫・改善点および本制度を「健康いきいき職場づくり」に活かす方法について説明いただきました。後半はストレスチェックを通じていきいきとした職場づくりを実践されているマツダ株式会社・ニチバン株式会社の担当者様に登壇いただき、質疑応答を交えながら実例を紹介いただきました。
当日は70名を超す方々にご来場いただきました。ストレスチェック制度に関する多くの質問や意見が飛び交い、制度への関心および問題意識の高さを伺えたとともに、数々の課題が見えてきました。多数のご来場を賜り誠にありがとうございました。
前半部では川上教授より「ストレスチェック活用と健康いきいき職場づくり」と題した講義をしていただきました。ストレスチェックが義務化され、既に多くの企業・組織で実施されていますが、取り組み方は各社それぞれのようです。川上先生は1年目の実施状況や課題について総括していただくなかで、職場環境改善の重要性を強調されておられました。(ポイントは以下参照)
・ストレスチェック実施率は高い数値であるものの、職場環境改善について取組めている企業はまだ少ない
・労働者の心理的ストレスを軽減するためには「職場環境改善」が必要
・今後は結果に基づいた職場環境改善が重要なテーマになる
労働者の心理的ストレス軽減には「職場環境改善」が必要である点は川上教授の調査により明示的なデータが示され、来場者一同の関心を集めていました。
更にストレスチェックを決められたやり方をするだけでなく、創意工夫しながら「健康いきいき職場づくり」の一環として取組むことで「問題探し」から「問題解決」へと転換できるのとコメントもいただきました。この点は、今後のストレスチェック施策を検討するうえで重要なヒントになりそうです。
■川上先生の講義の様子
後半部ではストレスチェック制度を自社の制度として運用し、先進的な取組みをされておられるマツダ株式会社の菖蒲田様とニチバン株式会社の坂本様にそれぞれ登壇いただき、各社の課題や成果、今後に向けた改善点等を説明いただきました。
マツダ株式会社の菖蒲田様は30年以上保健師として活躍されてこられました。保健師としての経験を活かしてストレスチェック、職場改善活動に取り組まれている体験談をお話いただきました。
同社では以前は健康管理を「怪我無く」「疾病無く」との観点で取り組まれておられましたが、安全健康活動を通じてコーポレートビジョンや会社のブランド価値向上のために貢献するとするポジティブな発想で、現在では働き甲斐や自らのありたい姿に考えを向けるようになったそうです。一人ひとりが活躍できるようになることで、ブランド価値も高まると説明いただきました。
またストレスチェック義務化以前からメンタルヘルス相談やストレスチェックを実施し、職場改善活動に取り組まれてきました。その取り組みにあたっては保健師だけでなく、職場の管理職や労働組合も巻き込み、それぞれの立場から何をしたらいいか一緒に考えながら実行してこられたそうです。「ストレスチェックは活動のメインではなく、結果を活かしてこそ意味がある」と述べられたように、同社ではメンタルヘルス推進リーダーの設置や、従業員に対して丁寧な説明を徹底するなど、常に対策・改善に主眼を置いた活動をされている点が印象的でした。
ニチバン株式会社の坂本様は営業職や事業戦略部門を経て管理部門に着任され、現在は全社メンタルヘルスを担当されています。同社では09年からストレスチェックを導入し、労働組合の協力を得ながら実施し、初年度から95%を超える受検率を達成されました。ストレスチェック実施後はラインケアやセルフケア研修、働き方の見直しを進められました。
集団分析については「労働時間」ではなく「在社時間」の傾向を出し、高ストレス者対応では「高ストレス者」と「フォロー対象者(高ストレス予備軍)」の抽出をするなどきめ細かいフォローをご紹介いただきました。
そのほかにも事業所への改善施策集を配布やワークシートを作成するなど現場の主体的な取り組みを促す改善活動を中心にご紹介いただき、職場改善活動の計画を策定するうえで非常に参考になるポイントを伺うことができました。
最後にはストレスチェックを義務だから実施するという「やらされ感」よりも企業や組織の「成長」を狙い、活力ある職場づくりを前向きに取り組みたいとのお考えをお聞かせいただきました。
講演終了後はご来場いただいた方々でグループワークを行い、各自の意見交換とグループごと質疑をまとめていただきました。その後は菖蒲田様、坂本様の2名にくわえ川上先生に再度登壇いただき、質疑応答の時間を設けました。
参加者からは自社課題や各個人の問題意識に関する事柄を中心に、闊達に質疑や意見が飛び交いました。
■質疑応答の様子。多くの意見・質問が飛び交いました
会場で挙がった質疑のうち代表的なものを下記にまとめましたのでご参照下さい。
Q.高ストレス者のうち面接を希望しないグレーゾーンの人達に対してどのようにアプローチしたらよいか。
A.菖蒲田様:そういった方達は上司に言われるのが嫌だと思っているのでは。上司を通さずに日頃から従業員の健康を診ている産業保健スタッフから直接本人に伝える方法はどうか。
A.坂本様:面接への敷居を低くするように、産業医と産業保健スタッフから直接声かけをしていくことも方法。
A.川上先生:他には保健師に面接のルートを用意する企業もある。面接を希望しない人に対しては定期健康診断の後、保健師と会う機会にストレスの状況を確認する事例もみられた。保健師やEAPが介入してカバーしている企業は多い。
Q.職場改善活動に関して対策検討会における具体的な事例を聞きたい。
A.菖蒲田様:部門の主体性を大事にし、各グループ単位で行っている。自分達の職場を良くするために、例えばプリンターの配置を変えるなど、ちょっとしたことでもできることがあれば実行し、自分達の改善例にしていった。その他には毎月一回みんなの意見を聴く会を設けた。何も実行しなくても話を聴くことによって、チェック結果が改善された。
A.坂本様:チェック結果が出たときに全体傾向をどう分析するか、という話になる。最終的には現場で実行してもらうが、まだあまり意識は高くない。弊社では全体・職種別傾向について他者事例を含めて話を聞いて、ヒントを伝える方法をとった。今回は改善施策集を配り、検討の切り口の提供を行った。現場から「何をしたらいいか」と訊かれたら改善プランを提示できるようなアプローチを検討した。
Q.労働組合として職場改善活動に取り組んでいるが、トップの意識を変えるのが難しい。どのようにしてトップの意識が変わったのか
A.坂本様:元々トップは(職場のメンタルヘルスに関する)リスクを認識していた。仮にそれがない場合、労働組合がストレスチェックをどのような位置づけにするかが重要になる。ストレスチェックを通じて業績が向上すればトップにも響いてくる。
A.菖蒲田様:健康管理の立場ではやりやすい。保健師がトップも知らない本音の情報を持っていることもあり、長年の巡回によって築いたベースの関係性が大事になった。トップに対してはリスクや収益へのメリットを伝えると響きやすいのでは。不況になるとどうしてもネガティブになってしまうが、仕事を楽しくいきいきとするようポジティブな考えに持っていき、「犯人探し」にしないようにすることも大切。
Q.現在57項目の調査票を用いているが80項目を経営者に勧めたい。どういった観点・データをもって説明したらよいか
A.菖蒲田様:57項目の調査票はリスクの切り口が中心であり、状況は予測に限定される。また仕事の量・コントロールに着眼しているため、リスクを減らすこと以外の対策を打ち出しにくい。反面80項目の調査票はワーク・エンゲイジメントを測ることができ、現在の状況が分かる。また職場の資源に着眼しているため企業の生産性向上に繋げられると考えた。
A.坂本様:弊社では元々57項目のほか120項目を実施しており、リーマンショック時の諸々の歪みを発見するツールとして最適だと考えた。まずは何を知りたいか、ということを考えるといい。57項目で欲しいデータが得られないなら、それをはっきりと伝えるべき。
今回のセミナーではとりわけ職場環境改善活動に関する多くの事例が紹介されました。皆様の組織において今後の立案へのヒントにしていただければ幸いです。
当フォーラムでは随時ストレスチェックや職場環境改善施策に関するセミナーを企画して参ります。今後もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
■ご登壇いただいたご三方、ありがとうございました!
(左から川上先生、坂本様、菖蒲田様)